好きなだけ

人の狂気に惹かれる双子座

If or...Xを経た私のことを (後日加筆03/27)

 

 

暦の上では春ですが、まだまだ厳しい寒さが続きます……。

 

 

そんな書き出しの文章をひねり出している村上担が続出していた春、『If or...』の季節。

ホールには手紙ボックス(というよりは『アンケート集計』と書かれていた100均の箱)が現れ、「読んでもらえないとしても…」と筆をとる村上担の姿が身内ながら美しかった。

「今から筆ペン講座に受講するしかない」と慌てふためく姿も愛らしくて素敵だった。

そして「読んでへん」と担当自ら発せられたことによる、ファン全員の「でしょうね!!」という唱和が完璧だった。

 

If or...X。

 

最初に感想を述べてしまうが、「愛の舞台」だった。

舞台が恋愛をテーマにしたという話では全くなく、舞台全体を通して始終そこに横たわっていたのは大きな愛だった。

村上信五への愛しかり、ファンへの愛しかり、創造することへの愛しかり。「愛」という概念なくして、私はこの舞台を語ることはできない。

 

If or...X。

 

まさかの10年目という大きな節目に初観劇を果たした私は、魂をサンケイホールへ置いてきてしまったままだ。

 

If or...X。

 

JAM魂では「こんな素晴らしいジャニーズアイドルがいるなら、みんな早く言ってよ!!!」と誰とも知らないエイタ―さんにブチ切れていた私が、「みんな…早く言ってよ……。いや、でも……言いたくないよな…………。内緒話だもんな……………」と天を仰いで泣いている。

 

確かにこの足は職場の床についているけれども、心はどこにも地に足ついていない。

業務中にふと足を止めて思い返すのは、彼の一挙手一投足。喜怒哀楽豊かな表情。自他共に認める二重の美しさ。

私の魂はサンケイホールへ置いてきてしまったままだ。

せめて明日からヒナちゃんが眼前にいない日々を乗り越えるために、つたない文章であの日のことを書き残しておく。

この文章を見れば痩せるわけでもない。身内の病気が治るわけでもない。ただただ独りのオタクがおいおい愚図っているのを見守るだけの記事になることを、予めご了承ください。

 

 

 

『If or...X』の舞台チケットが見事当選した私は、全く一切これっぽっちも「推している人間の舞台」が待ち受けていることを実感できずに日々を過ごした。

しかし、様々な意味で荒れるだろうとは予測していたため、私の保護と管理、そして介錯を担当する人間が必要だった。そのため、去年他グループではあるが、推し舞台の最前席に座った勇気ある一人の友人に声をかけた。

罪悪感から彼女には私の介護についてもらうとは詳しく説明せず、舞台の同行を願うと彼女は快く了承してくれた。私の思惑なんて露知らず、「どうせなら特別な日にしよう」と彼女は素敵な提案をしてくれた。

そうか、特別な日なのか。

と、今までどこか他人事だった自分が、胸の片隅でキラキラと何かが輝きだしたような感覚がした。

「どうせなら」という彼女の厚意により、我々は難波のごっつええ感じのホテルに泊まり、ごっつええ感じの焼肉屋でディナーをした。

最近知ったばかりの味、黒霧島を舌でころがしながら夜に沈む難波を眺めていたら、ふと「今頃ヒナちゃんも黒霧島や二階堂を飲んでいるのだろうか」と耽った。

 

その瞬間に、さっき歩いた道頓堀でも感じていた強い衝撃が脳みそを揺さぶった。

「いま、ヒナちゃんは大阪にいる」

だからなんやねん、それがどないした。

という世界に突入しかける至極当然の事実ではあるが、やはり大阪と東京の距離は遠い。

ヒナちゃんは東京に電話線をひき、住民税を払っている。冗談めかして「大阪を捨てた」と周囲の方からいじられているが、それはひとえに人々の寂しさからくる弄りだったのだろう。

まあそれは想像でしかないが、私にとって「この大阪にヒナちゃんが『今』いる」というあまりの現実離れした事実が受け入れ難いほどの衝撃だった。距離感の近さは、現実である肯定の度合いを増す。

むせかえるような感情の波と体内のアルコールをなんとか抑えていたら、友人は「どうですか。推しの舞台前夜の気持ちは」と優しく尋ねてくれた。

ついその一瞬前に黒霧島を逆噴射しそうになっていた私は、正直に「実感がない」と答えた。

「会ったことがないから分からない」

 

どんな背丈なのか。どんな声色なのか。

どんなまなざしなのか。

どんな生き方なのか。

それらはテレビを介しては見られず、たった一度きりのコンサート参戦(天井席)でも分からなかった。

はるか彼方の輝くステージで、アイドルとしての人生を全うする姿。それが私の知るヒナちゃんの姿すべてだった。そしてそれが私にとって最初で最後のヒナちゃんだった。

だから、明日サンケイホールという決して大きくないホールに、ヒナちゃんが現れる光景が想像できない。

ヒナちゃんが、舞台に立っている姿。

とても想像を超えた世界が、明日の自分に待ち受けている事実だけはなんとか腑に落とそうと必死だった。

だが、それは至極幸福なことだと、今なら思える。

前夜は未知なる世界にオドオドと震えるばかりだったが、色々経験した自分の「知らない気持ち」に触れられるのは数少ない。そんな希望しか感じられない前夜を、希望しかない気持ちをもてたことは、客観的にみて幸福ではないか。

引き続き黒霧島を逆噴射しそうになってはいるが。

 

優しく私の拙い話を聞いて受け止めてくれる友人とは、その後もじっくり話をさせてもらった。

家のこと、仕事のこと。

私がWESTちゃんの畑から出たこと。

それを彼女はどう感じているのか。

この話は、この記事で載せるには脱線が過ぎるため書き留めない。

 

そしてその晩、酒でベロンベロンになった両名は、関ジャニ渋谷すばるの歌う『第9』に爆破し、そのまま眠りについた。

 

 

 

そして迎えた当日、私はブリーゼタワーエスカレーターにしがみついていた。

 

「このエスカレーター、上にあがっていくよ~~!!!!!」

「ホールに着いちゃうよ~~~!!!!!!!!」

と、小さな悲鳴をあげながらホールに向かっていた。

介添人の友人は「はいはい」と冷静に私の尻を叩き、なんとか無事にホールへ到着した。

会場時間を間違えて早めに来てしまったため、扉前には大勢のファンの方がいらっしゃった。

紫のセーター、紫のカバン、紫のスカート、歴代のイフオアグッズ………。

ありとあらゆる形の愛が充満していた。

私の半径うんメートル先までずっと、村上信五のことを大切に思っている人しかいない。

「なんて幸せな空間なんだろうか。みんなヒナちゃんが好きなのか」

それまで「ジャニーズが好きです」と話せば、必ず「ヒナちゃ…いやあの、村上信五くんが……」とセットで答えていたが、それを受けた周囲が返す言葉は、必ずしも嬉しい言葉ばかりではなかった。(それが100%悪意が無かったとしても)

会場にいらっしゃる全員と握手してまわりたい衝動と戦いながら、私は刻一刻と迫る開演の時間を待っていた。

様々な観劇をしてきたが、まとう会場のオーラがやわらかく穏やかだったのが印象的だった。

目の前に座っていた若い10代ほどの女の子グループと、40ほど歳の離れた女性グループが自然と会話を始めていたのが驚きで、「自担とファンは似る」という言葉を思い出していた。

会場に流れる関ジャニ∞の楽曲に、時折口ずさむ高齢の女性。

パンフレットに写るヒナちゃんをしげしげと見つめる男性。

「5年目にしてようやく当選したのよ~」と嬉しそうに話す中年の女性。

隣の見知らぬファン同士交流する若い女性。

この空間はなんて肯定的なんだろう、と感じた。

そうか(「だから」とは断言できないが)ヒナちゃんは、この場でしか見せないものがあるのか。

決して万人受けしないであろうアイドルと、そのアイドルを応援している少し肩身の狭いファンが、お互いに全て肯定してくれる場所。

なんという特別な場所なんだろう。一種の神秘性ですら感じさせる。

サンケイホールがひとつになるような美しいパワーを体感していると、舞台の照明が花火ように強く輝きだしてスーッと落とされた。

色めき立つ観客の声と様相。

会場を流れるBGMは大きくなり、そしてピタリとやんだ。

無音と暗闇。

と、次の瞬間、私の真っ正面で光るライト。


そして私はピンスポットを背に立つ、

甲冑姿の村上信五を見た。

 

 

 

 

終演後、鳴りやまない拍手が会場を埋めた。

3度流れた「本日の公演は以上です」のアナウンス。村上担の愛ある意地と根性を垣間見て、思わず笑いが出た。

全員一斉に会場を出ようと立ったため、我々は「少ししてから出よう」と客席に座り直した。

そこで私はぼんやりと、胸に押し寄せる己の感情に目を向けていた。



「良かったねぇ」

「幸せだねぇ」

どうしてそう感じるの?

 

「出会えて良かったねぇ」

「好きで良かったねぇ」

そうだねぇ。

 

「あの人があなたの自担なんだよ」

「幸せだねぇ」

 

 

私は涙をこらえることができなかった。

会場の座席で、突然涙が溢れてこぼれ落ちた。

友人はそっとハンカチを渡して見守る。そして「良かったね」と言葉を添えてくれた。

そう、全てが肯定的だった。ヒナちゃんを包むオーラも、会場を漂う空気感も、何もかもが「好き」というあたたかな愛ばかりだった。

その愛の中に自分も寄せてもらえ、私は「ヒナちゃんが好きな自分を好きに」なれそうだった。

自分を力一杯、でも優しく肯定してくれた人。場所。ファンの皆さん。

それまで「ジャニーズで誰が好きなの?」という質問と、その答えの反応にどこか傷ついていた自分を優しく抱きしめてくれた、今日というこの日。

言葉にし難い大きな愛に包まれて、私は嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。

あなたを好きで良かった。

あなたに出会えて良かった。

 

会場を出た私たちは、2階渡り廊下に出てぼんやりと行き交うファンの皆さんを眺めた。

眼下でやりとりする人たち全員が、ヒナちゃんのファン。

ここにいる会場の全員が、ヒナちゃんを応援している人たち。

アンケート用紙に真剣な、でも幸せそうな顔で言葉を紡ぐ人たち。

みんなホカホカの笑顔で帰っていく。

また来年。また一年後。そんな言葉をかけ合いながら去っていく人たち。

「あかん、永遠に見てられるな??!!!!」と、私は待っていてくれた友人をつれてホールの外へ出た。ポケットから大事なものを落としたことにも気が付かず。

 

 

その日から昨日までずっと、私の魂は不在のままだった。

いつか帰ってくるだろうと思っていたがなかなか帰ってこず、なかなか苦しい期間を経た。

では何故、昨日帰ってきたのか。それはもう愚問なのだが、「関ジャニ'S エイターテイメント JAMライブDVD」が発売されたからだ。

私の始まりのコンサート。

『夢への帰り道』で、愛し君のピアノ伴奏に嘔気を伴う震えにのたうち回っていたら、彼のソロパートがきた。

 

「またあえたなら

うたいあかそう」

 

夢への帰り道を辿って、ようやく帰ってきた私の魂。

彼のことが好きだと告げても、彼にとって恥ずかしくない人として生きたい。

あなたのファンでありたい。

私もあなたのように誇り高く生きたい。

うまく言葉にできないまま終わってしまいそうだが、かの椎名林檎が私の気持ちを代弁してくれる歌を生み出している。

 

「明日はあなたを燃やす炎に向き合うこゝろが欲しいよ

もしも逢えたときは誇れる様に

テレビのなかのあなた

私のスーパースター」

ー『スーパースター』 東京事変

 

 

If or...X。

どうか観劇する最後の一人まで幸せでありますように。

 

なによりも、愛し君であるヒナちゃん。

あなたにとって幸せな瞬間が永遠に続きますように。

 

 

世界中にたくさんいるあなたのファンの、その内のたった一人より。

 





追記(03/27)



ついに迎えた千秋楽にて、村上担の春に一区切りがつけられた。


先だって発表することはもちろん、マスコミを介して発信することが当然の世界において、彼は最後の最後まで内緒話としてとっておいてくれた。

始まりあり終わりも必然ならば、いつまでもメソメソと悲しんではいられない。

むしろ、「終わり」という困難な一歩を、彼は自らの意志で踏み出していったことに深く尊敬するとともに、


「は〜〜〜〜!!!やっぱり好っきゃわ〜〜〜〜!!!!!!!」


と大の字になって仰向けに倒れている。




同行してくれた友人は、終幕の情報を聞き、こうコメントしてくれた。

「ヒナちゃんがあなたを舞台に連れてきたんだな、と思ったよ」と。

なんてロマンチストな女だろう。

あまりのロマンチックな響きに私は一人勝手に感極まって、ゴリラのような嗚咽をあげて泣き出しそうだったぜ。



ヒナちゃん。これはなんのご縁だろうか。

去年の今頃、私はあなたへ一切なんの接点も興味も無かった。

たった一つのきっかけが無ければ出会わなかったし、何かの歯車が噛み合わなければ舞台に行けなかっただろうこの世界。

私はつくづく「『あぁ、生きていて良かった』と、思う瞬間のために生きている」ことの意味を考えている。


そして、あなたが私にとっての「奇跡の人」であると、僭越ながら思い上がらせていただきたい。



ヒナちゃん。

10年分の『If or...』、本当にお疲れ様でした。

そして、あの内緒話の輪に寄せてくださり、ありがとうございました。


またいつか、村上担の皆さんと一緒になって、あなたの秘密のお話を聞けますように。